トップメッセージ

事業を通じてモビリティ社会を支え、豊かにしていくTOYO TIRE株式会社 代表取締役社長 清水隆史

  • ※このペ-ジは統合報告書に掲載された内容です。

統合報告書の発刊にあたっての思いを聞かせてください

経営変革・事業推進の現在地を伝える

2021年、当社は5カ年の中期経営計画、「中計’21」のスタートを切りました。この経営計画は量的拡大ではなく、質的向上をめざした事業戦略を軸に据えています。同時に、さまざまな経営基盤の強化を図ることを志向しています。中計’21はこのような変革によって、新たなステージへシフトチェンジしていく意思を込めて取り組んでいます。
この5年間の道のりでは、事業とサステナビリティの融合を図ること、すなわち、事業を通じて経済価値のみならず、社会価値を創出して持続可能な社会の実現に貢献することを宣言しました。
統合報告書は、私たちが進める経営変革の現在地をステークホルダーの皆さま方にご理解いただくための大事なツールであり、また、これを初めて発刊できるに至ったこと自体も、その変革を象徴的に示す一つの足跡であるという思いを持っています。

理念に裏打ちされることの意義

中計’21を稼働した年の4月、経営会議の下にサステナビリティ委員会を設置し、私自らも委員長に就きました。経営会議は、当社の経営執行事案を諮る最高の意思決定機関です。このもとに7つめの専門委員会として「サステナビリティ」と名の付く委員会を設けたことは、会社の歴史的な観点からも大きな意味合いがあります。
初年度の委員会では時間をかけて議論を重ね、当社が取り組むサステナビリティ活動の原則となる基本方針、優先的に取り組むべき重要課題(マテリアリティ)、マテリアリティに紐づく活動計画と目標・KPIを策定しました。
基本方針の策定、マテリアリティの特定にあたっては「理念との接続」を重要視しています。当社らしさを見失うことなくサステナビリティに向き合うことが重要であり、その活動は当社の存在意義を示す理念に裏打ちされていることが不可欠だと考えたからです。また、そうした接続によって、サステナビリティと事業の融合を図ることが可能になると考えています。

ポテンシャルを確認いただく舞台

統合報告書は単なる媒体ではなく、短・中・長期にわたって会社がどのような価値を生み出そうとしているのか、また、そのために当社がどのような能力を培い、備えているのか、会社のポテンシャルを確認いただく大事な舞台のようなものだと思っています。
社内でのサステナビリティに対する意識は、わずか2年前と比べても格段に高まっていると実感しています。一方、意識と活動が連動し始めているとはいえ、短期的な事業環境が想定しづらいなかで10年後あるいは20年、30年先にどのような事業を通じて社会にどのような価値を提供し利益を得ていくのか。事業とサステナビリティ、その将来の在り様を言葉にすることは決して簡単ではないことも感じました。
最終的に、中計’21の事業戦略をふまえた当社のビジネスプロセス、そして強みと弱みを体系的に整理し、事業とサステナビリティ課題との関連性を本報告書で明らかにできたと思います。
当社の事業活動が財務成績や製品・サービスだけではないアウトプットにつながり、そして社会に生み出す価値、すなわち資本に与える影響をアウトカムとして位置づけられるという連関、さらにその資本を事業経営のために活用するという往還も示すことができました。これらは、事業とサステナビリティの融合を図るうえでも重要な作業であったと評価しています。
初めてとりまとめた本報告書から、当社が価値を創造するプロセスを読者の皆さまに汲み取ってもらえることを期待しています。ただ、これは入り口であり完成形とは考えていません。ステークホルダーの皆さまとの対話を通じてあるべき姿をさらに追求していきたいと考えています。

経営の歩みをどのように評価していますか

機能組織の密なる連携

2019年末から3年半にわたり、世界は新型コロナウイルス感染症の深刻な拡大に見舞われました。2020年2月、これは只事ではないと感じた私は、すぐさま各機能組織の管掌役員を集めました。そして、世界各地で何が起こっているのか、1つのテーブルの上で情報共有を始めました。当社事業がグローバルに各地域でどういった影響を受けると予見され、どのような対策が必要か。毎朝、経営幹部が同次元かつ同じ目線で課題を捉え、対策を協議し、機動的に対応を図るという活動体系をつくりました。これは現場前線の仕事の仕方を変えるなど、社内の各組織に少なからぬインパクトを与え、会社全体の瞬発力を高めることにもなりました。2020年下半期業績にはこれらを成果として享受し、当時進めていた中計’21の策定プロセスにも良い効果をもたらしたと認識しています。
当社は2017年に機能別組織体制へと改編して以降、生・販・技・コーポレートが一体となって企業力を向上させるスタイルを志向してきました。社長直下でフラットに位置する各機能が、情報と課題を適時共有し、連携する。コロナ禍において図らずもその連携強化、土台固めにつながったように思います。
この会議体は緊急性の高かった当時から現在の恒常的な性質に合わせた名称に変更して今なお、実は当社の「良き習い性」として継続しています。経営課題の端緒をいち早く掴み、議論する。これは当社ならではの経営の礎として定着しました。

代表取締役社長 清水隆史

踏まえるべき在りようを共有

当社の現在の経営状態は、事業戦略の根幹として公表、コミットした中計’21に照らし合わせて認識いただくことになるでしょう。仔細については、公式に発表、説明する業績や中計進捗の資料などを参照いただけると思いますので、ここでは私の考える当社の在り方、そして、ポートフォリオの強みに当たる部分の状況について少し触れておきます。
中計’21は全てを新しく大きく増やすという考え方ではなく、質的変革を実現していくことをコンセプトとし、次のステージへシフトしていくための大事なタームとして位置づけています。そのために踏まえるべき3つの在りようを私は社内に示しています。
一つは、「強みをさらに強くして伸ばすこと」。後ほど言及する北米市場でのプレゼンス。これをさらに盤石なものとしていくことは、当社のとるべき王道であると考えています。もう一つは、「持たざる強みを発揮していくこと」。持ち合わせていないことを否定的に捉えず、それを身軽であるという強みに置き変える。あるいは、外部の力を積極的に活用する機動性の高さを持ち味にしていくこと。これは当社の生き方の一つになるはずです。最後に、「変化を採り込み、自ら進化していくこと」。これまで着手できなかったさまざまな基盤をここでしっかり強固にすべく、既成概念にとらわれず変革にチャレンジしていくということです。
シンプルな方向づけによって社内の誰もが理解でき、ベクトルを合わせやすくなりました。歩むべき道について社内の共通理解が生まれ、中計’21への動機づけと力強い推進を図ることができています。

総力を挙げ、北米事業基盤を強固に

当社は主力の北米市場において、多くのお客さまより大変好意的な評価をいただき、大口径タイヤカテゴリーで独自の存在感をつくり上げてくることができました。お客さまに寄り添い引き出した潜在ニーズを開発にフィードバックするという機能連携の強化に徹し、中計’21の推進にも大きな成果を生み出しています。
また、当社の魅力を支持してくださる顧客基盤をより強固にするため、販売チャネルの再編を推し進め、当社ブランド品の取扱いネットワークを飛躍的に拡充しました。果敢な拡張戦略に打って出たことで、当社のプレゼンスを高めることができ、コロナ禍による需要減退局面においてもダメージを最小限に留め、需要の回復局面ではいち早くこれを捕捉することができたと考えています。
米国工場の製造ラインをさらに大口径タイヤへシフトしているほか、2022年に稼働を開始したセルビア工場からもすでに北米向けの出荷を始めています。他工場からの供給補完を併せ、まさに当社の強みをさらに強化するという意思を戦略的に実行しています。ロードマップに従い、2023年の現時点で順調に事業を遂行しているところであり、引き続き総力を挙げて戦略を推し進めてまいります。

サステナビリティ経営を着実に進展させていると評価していますか

経営の質を磨く課題への真摯な対峙

初年度のサステナビリティ委員会では、全社方針として掲げる当社姿勢についての議論、また、多岐にわたる課題を整理し、当社が網羅して取り組むべきテーマを一つのマップへ落とし込む作業を丁寧に進めました。全社を挙げてスタートさせた本格的な活動が昨年一巡し、今、2年目を折り返しました。
それぞれのテーマを、主管部門や全社横断タスクフォースといった特定の推進母体組織が委員会の方針に基づいて目標や計画、その管理方法を明らかにし、委員会では進捗確認や中長期目線での課題点検、経営会議に諮るテーマの議論などを行っています。技術委員会や組織人事委員会など他の専門委員会との連携、取締役会での活動報告や議論など、緒についたばかりではありますが、ESGガバナンスは一歩ずつ着実に進んでいると考えています。
一方、経済、社会、環境を取り巻く新たな課題は枚挙にいとまがなく顕在化し続けており、それらに対する国際機関や各国・地域、業界などの対応もめまぐるしさを増し、変化の落ち着く兆しは見えません。当社の事業経営にどのようなリスクが生まれ、機会をもたらすのかを常にウォッチしながら、中長期的な視点をもって対策を講じていく必要があります。極めて難度の高い課題ですが、これに真摯に対峙していくことが経営の質を磨き、会社の社会的存在意義を追求していくことになると信じています。

代表取締役社長 清水隆史

社内に定着化し始めるESG思想

社内には、ESGへの取り組みが日常的な景色として落とし込まれつつあります。
例えば、気候変動というビッグ・イシューとの距離は明らかに縮まっています。再エネ調達は中長期計画をもとに、年度計画に織り込んで適切な社内審議を経て実行を進め、脱炭素の投資評価を設計して会議体に導入しているほか、TCFDへの賛同姿勢を表明し、必要な開示準備を進めています。気候変動に関わる財務インパクトを数値化できれば、真に経営課題として脱炭素に向き合っていることを内外に示すことができ、いかに影響を抑えていくかが直接的な経営テーマとなります。
また、そうあって当然ではありますが、サプライチェーンに対する視野は広がり、視点も深まってきています。私たちが事業経営を進める上でどのような関係者とルーツをともにしているのかに目を馳せ、健全なルーツ、適切な関係性、健康な精神を確保していくことを命題として取り組み始めています。
そして、全ての企業活動を動かしている人財の精神、やりがい、挑戦心といったものが健全かつ意欲的に動機づけられることが、会社の持続可能性、社会への価値創出を支えるものとして位置づけ、人的資本に対する基盤づくりをさらに充実・進化させていきたいと考えています。

来たるEVの波、さらに存在感を高めて

当社が属するセクターにおける近未来の姿、次世代モビリティはその実現可能性への変容スピードが加速しています。モビリティ社会の持続可能性にとっては、モビリティの環境負荷をどれだけ低減できるかが最重要課題です。解決への1つのカギを握るのはEV(電気自動車)です。EVはこれまでのクルマと一線を画す外観をまとっているわけではありません。劇的に変わるのは内部構造であり、重量です。これを支えるタイヤも外観は変わりませんが、その果たす役割はより重要になります。大径化、転がり抵抗の低減、静粛性、この3点を高次元で実現することは最低限必要な条件でしょう。
大口径タイヤを得意とする当社には有利であり、当社の事業規模を踏まえると差別化は不可欠です。拡大・多様化するEV市場において、当社だからこそ提供できる「走りの愉しみ」を大切に嗜好性の高いお客さまの満足を先取りする。こうした独自戦略でこの潮流に挑戦することを中長期シナリオとして描いています。一見、環境性能に優れているとは思えないピックアップトラック用のゴツゴツしたタイヤにおいても、独自のデザイン性を磨きながら、空気抵抗を減らす形状設計などのアプローチによって、性能向上の可能性に挑戦していきます。

事業を通じて社会課題を解決し、社会的価値を創出する―この大義のもとで、事業経営とサステナビリティを統合的にマネジメントし、ステークホルダーの皆さま方の対話を通じて、さらにその質的向上を図っていく。皆さまにはぜひ、本報告書をもとに当社経営を高めるためのお声やお知恵をいただきたく考えています。今後ともTOYO TIREグループにご期待とご厚誼を賜わりますようお願い申し上げます。