トップメッセージ

事業を通じてモビリティ社会を支え、豊かにしていくTOYO TIRE株式会社 代表取締役社長 清水隆史

  • ※このペ-ジは統合報告書に掲載された内容です。

自分たちは何者であるか、あるべき姿を掘り下げた1年

昨年、初めて発行した統合報告書について、私は、会社のポテンシャルを確認いただく大事な舞台のように位置づけて考えているという思いをお伝えしました。私たち自身は統合報告書の編集過程において、「当社とは何者であるか」という根源的な問いに対し、用意できる答えを一つひとつ誌面の上に準備していきました。理念、歴史、中長期経営戦略、財務情報、資本政策、特定したマテリアリティに紐づくサステナビリティへの取り組み、ガバナンス体制など。社会の皆さまに会社を語り事業を伝える上では、会社には実にさまざまな断面があります。それらをしっかり進化させ有機的に整合させることで、会社も一つの生命体のように秘めているポテンシャルを確認いただくことができるのだという境地に至りました。
当社はどのような社会的資本から、どのような〈ビジネスプロセス〉を通じて付加価値化しているのか。その〈アウトプット〉から、どのような社会課題を解決し、中長期的に社会にどのような価値を生み出そうとしているのか。それらを体系化した当社の【価値創造プロセス】を示すことができたことは、2つの点で大きな意義があったと自己評価しています。

価値創造プロセスを軸にして捉え直す

その一つは、当社の事業経営活動の真髄である〈ビジネスプロセス〉を私たち自身が整合させていかねばならないことを改めて確認できたことです。同じビジネスドメインにおいて、当社は必ずしも規模的優位性があるわけではありませんが、私たちは持てるリソースを最大限に生かし、事業経営構造の最適化に取り組んできました。全機能が一つの戦略に対して意思を強く疎通させ、適切に連携することによって独自の強みを最大化させることが、当社の特長です。人財基盤、技術基盤がその機能発揮を支え、また、健全な企業成長を損なわないようガバナンス基盤、リスクマネジメントの強化を積んでいます。こうした他社とは一線を画したポートフォリオから〈アウトプット〉を紡ぎ出していることを再認識しました。
もう一つは、【価値創造プロセス】によって、事業の取り組み方への示唆を感じたことです。〈アウトカム〉を意識していくべく、各機能組織下の本部単位で【価値創造プロセス】のブレークダウンを進めています。当社では理念の中で「お客さまの期待や満足を超える感動や驚きを生み出し、豊かな社会づくりに貢献します」という言葉を掲げ、社会的な貢献を意識した経営を標榜して取り組んでいますが、では、具体的にどのような価値を社会に創造していくのか。その解像度を高める必要があります。ともすれば、何の疑いもなく業績必達に邁進するのが事業組織の常です。そこで、「私たちは社会にこうしたことを実現するためにこの仕事をしている」という文脈のもとで事業を戦略的に推し進め、長期的な目線で利益を追い求めていかねばなりません。本部長クラスが指揮をとり、業務推進のしくみの中でそうした文化を形成していくように取り組みを始めています。

私たちの使命(ミッション)

愚直なアウトプットがアウトカムの支えに

2021年にスタートを切った5カ年の中期経営計画「中計’21」の中間点を折り返し、2024年、中期的な経営戦略の後半戦へと順調に歩みを進めています。2023年度は売上高、及びすべての利益項目で過去最高を更新することができました。中計最終年度の着地としてめざしている営業利益600億円を前倒しで到達し、営業利益率は目標に0.1% 及ばない13.9%となりました。為替の円安メリットなどの追い風はありましたが、それに加え、2021年から2022年にかけて未曽有の難局を全社一体となって地道に取り組んできたことが、確実に成果となってこの2023年の結果につながっていると評価しています。
特に「このようなお客さまの期待に応え、このようなタイヤを届けることで喜んでいただこう」とする付加価値の高い商品群の市場供給戦略は、各機能組織のギアが噛み合って顧客インサイトにミートし、当社ならではの付加価値を社会に生み出すとともに、結果として利益の底上げに寄与しています。本年もこうした顧客起点でのきめ細やかな事業経営を、引き続き愚直に積み重ねていくことを命題として指揮を執っています。中期経営計画を見据えながら、手元の業務を進めることで社会的、環境的価値創造の前提となる経済的価値、〈アウトプット〉をしっかり支えていきます。事業を取り巻く環境は、原材料価格や為替の影響を受けやすいことを踏まえ、その他のコストオペレーション項目をいかに最適化していくかが肝要です。一方、生産拠点での操業と効果を最大化しながら、市場と顧客を見極めた最適かつ質の高い商品構成を重視し、当社ならではの事業戦略の精度を磨いていきたいと考えています。

北米基盤をさらに磨き、他市場も質的底上げを

北米市場では大口径タイヤカテゴリーにおけるトレンドを捉え、引き続き魅力ある製品をタイムリーに提供することに注力していきます。EVの世界的拡大は目を見張るものがありましたが、その勢いには一時的なブレーキ傾向も見られるため注視が必要です。一方で、カーボンニュートラル社会の実現に向けてEV への評価と普及の想定は変わってはおらず、マーケットでの当社のプレゼンスを確かなものにすべく将来的な先鞭をつける大事な時期にあると考えます。
電動化に伴い荷重が増すとともに、トルクも高まるなど、タイヤへの要求性能は高度化するでしょう。またEVを支えるタイヤには大口径化が必要となるため、当社にはアドバンテージがあると認識しています。当社の強みは、転がり抵抗の低減や耐摩耗性、静粛性といった、相反すれどもEV 装着タイヤには求められる基本要素群を高次元で満たしつつ、走りの愉しさや魅力的なデザインといった独自の付加価値を兼ね備える商品力です。
お客さまに寄り添って潜在的なニーズを引き出し、開発陣にフィードバックするというマーケティングを軸とした機能連携の強化に徹し、この潮流を掴んでいきたいと考えています。競合他社の大口径タイヤ戦略強化を前提として踏まえ、北米市場の同カテゴリーで先行優位なポジションをさらに高め、積み上げた信頼と機動力という当社ならではの強みを最大限に活かしていきます。
商品力を支える技術基盤については、さらに野心的にレベルアップを図っていく必要があると考えており、しっかり投資も継続していきます。また、日米欧のR&D 拠点それぞれの持ち味、役割を生かした総合力を高め、モータースポーツ活動への参画も減退させることなく、それらを通じて得られる知見を技術力の向上につなげ、オフロード分野でのEV対応タイヤの開発も計画的、効果的に進めていきます。
商品の魅力と価値を理解し、販売を支えてくれている取引先との信頼関係、強固な顧客基盤も当社の資産です。持たざる領域を逆手にとって強みとしてきた小回りの利く当社らしい機動性を今後も維持していきます。
北米以外の地域においても各地域の市場動向に合わせて付加価値商品を戦略的に選定し、それらの供給に注力しています。日本、欧州においては、構造改革を進め、「量を追わず質を追求する」ことを事業活動の重点方針として徹底し、同じ考えを持ってユーザーの皆さまに商品を届けてもらえる販売パートナーとwin-winとなる関係構築に注力しており、それらの成果が2023年後半から業績に確実に反映され始めています。アジアにおいては、2021年にマレーシアのSilverstone 工場の閉鎖を断行し、同ブランド商品からTOYO TIRESブランド商品へのシフトを推し進めています。その結果、ブランドプレゼンスが着実に定着、向上し、マレーシア国内での収益性は格段に改善してきました。
総じて、2024年の現時点において、中計に掲げた経営目標を捉えて余りあるステージへと実力値も上がってきていますが、変化が常態化している時代であることを念頭に置き、中計の最終年度である2025年に目標を上回る〈アウトプット〉を実現していけるよう取り組んでいきたいと思います。

めまぐるしい外的変化の中でサステナサイクルを内在化

中計’21のスタートとともにサステナビリティ委員会を設置して、3年の活動を重ねてきました。マテリアリティに紐づくそれぞれの活動テーマを各機能組織の事業計画に落とし込み、その進捗状況をモニタリング、管理するというしくみ、サイクルが定着してきました。委員会傘下の脱炭素やサプライチェーンといったタスクフォースでは効率的、効果的に全社最適を追求しながら活動し、より自律的にさらに高次の課題に取り組み始めています。経営会議への諮問や取締役会での活動報告などESGガバナンスは着実に進み、中計’21で掲げた「事業経営とサステナビリティとの融合」も一定程度内在化させてくることができたと考えています。
一方、この3年のうちにも経済、社会、環境を取り巻く新たな課題は、枚挙に暇なく顕在化し続けています。これらに対する国際機関や各国・地域、業界などの対応もめまぐるしさを増し、変化の落ち着く兆しは見えません。当社の事業経営にどのようなリスクが生まれ、機会をもたらすのか。そうした動向を常にウォッチし、中長期的な視点をもって対策を講じていく必要があります。
2023年度の最終の委員会では、サステナビリティの中長期目標・計画について、国内外の情勢や他社動向などの環境変化に照らして有効であるか、また、当社の【価値創造プロセス】を通じて〈アウトカム〉にどうつながるのかの観点で点検し、ローリングを実施しました。現在、2024年を起点にセットした中長期目標のもとで、事業とサステナビリティの融合を推し進めています。

実効性を高めるため、意識も行動もアップデートする

気候変動という地球規模のビッグ・イシューに対する意欲の距離は年々縮まっています。脱炭素に向けた優先施策である再生可能エネルギーの利活用は経営会議で諮った中長期計画に沿って進められ、2030年のCO2削減目標も視界に捉えています。ただ、国際的なCO2削減の現況に対する厳しい見方や国内外の次世代エネルギーを視野に入れた議論も踏まえ、より実効性のある対策を考えていく必要があります。当社では脱炭素投資の判断基準の一つとして有効と考えるICP制度を本年から正式運用していきます。この5月にはSBT 認証取得に向けたコミットメントレターを提出しました。Scope3に対するより実効性の高い目標を設定し、本年中にも認証審査申請を行う計画です。
タイヤ業界においては摩耗粉塵の環境影響低減や天然ゴムサプライチェーンにおける森林破壊防止が喫緊の課題となっています。事業活動でこれまで享受してきた自然資本の持続可能性への行動も不可欠になっており、当社は業界団体や取引先(サプライヤー)と連携して対応を強化するとともに事業インパクトもしっかり管理しています。
また、2023年にバリューチェーン全体を対象に人権リスク評価を行い、重要リスクを特定しました。現在はそれらに対するアクションプランの実行段階に入っており、委員会でもその進捗をモニタリングしていきます。言うまでもなく人権尊重は法対応として行うものではなく、企業が社会の中で活動していく上で配慮すべき当然の基本です。ステークホルダーと適切な関係を築いていくための大前提であるとの認識で取り組むことが重要であり、委員会を通じてその意識の徹底を図っています。人権と不可分にある人的資本は社会への価値創出を支える源泉であり、やりがいや挑戦心が健全かつ意欲的に動機づけられることによって会社にリターンをもたらします。事業戦略と一体的に捉え、多様な能力、考え、キャリアを持つ人財が闊達に活躍できるよう多様な機会提供と環境づくりをグランドデザインとして描き、投資を行っていきます。
こうしたサステナビリティに関するさまざまなESG課題の対処においては、その解決に向けた実効性の確保が重要になっていると認識しています。目標に対して実効性ある対策を打ち立て、それを管理していく。すなわち実効性の測定、評価結果に基づく是正、改善の継続が最重要だということです。サステナビリティ委員会のモニタリング機能をそのような視点でさらに充実を図っていく考えです。
当社はすでに中計’21達成に向けた戦略実行と並行し、2026年からさらに5年先を見据えた次期中期経営計画の策定に着手しています。現中計で進めてきた事業とサステナビリティの融合をより強固にし、当社の企業価値を真に高めていく内容にするためにも、本統合報告書を通じてステークホルダーの皆さまと建設的な対話を継続していきたいと考えています。今後ともTOYO TIREグループにご期待とご厚誼を賜わりますようお願い申し上げます。