収益を生み出す構造を磨き続け、
成長を確かなものにする
代表取締役社長&CEO
収益を生み出す構造を磨き続け、成長を確かなものにする
「中計’21」で生販技の連携を軸に収益性を高め、財務基盤を強化した当社は、不確実性を前提とした時代において、経営スピードと独自性を軸に据えてさらなる成長を目指します。本インタビューでは、「中計’26」で目指す成長の考え方と、その実現を支える戦略及び基盤についてお伝えします。
Q1|質の変革による成長はどのように実現したのか
―中計’21で築いた経営基盤―
中計’21は、当社にとって事業の成長計画としての位置づけにとどまらず、その遂行を通じて経営のあり方そのものを変革した5年間でした。
私が社長に就任した2015年当時、当社は品質問題への対応やガバナンスの改善など複数の経営課題と厳しい財務状況に直面していました。そのなかで最も重視したのは、「利益を安定的に生み出す体質をいかに構築するか」という点です。それがなければ品質問題の対応はできなくなり、もとより会社の存続も危ういと考えていました。そのため、事業ポートフォリオの見直しや組織改革など、必要な施策は逡巡せず抜本的に実行しました。モビリティ分野を事業の中核に据えるとともに、事業本部制から機能別組織、すなわち生産・販売・技術といった機能軸で事業を横断的に捉える体制に転換し、部門間の壁を越えて連結ベースで物事を考え、全体最適を志向する組織への変革を目指しました。
中計’21では「全機能の連携」と「変化へ迅速・柔軟に適応する力の強化」を目指すべき姿として掲げました。奇しくもコロナ禍に開始した日次会議を通じて、売上や生産の最新状況を全機能で共有し、迅速に意思決定を行う仕組みが定着しました。さらに収益構造の見える化を徹底するとともに、規模ではなく質(収益性)を追求しました。また、この経営方針にそぐわないビジネスモデルは見直しを断行しました。社内には戸惑いや葛藤はあったと思いますが、こうした取り組みを通じて意識が次第に一体化し始め、共通課題に向き合い変革する組織へと進化しました。 その結果、収益性は業界トップ水準を実現し、財務的な体力も向上しました。何よりの成果は「やるべきことをやり切る組織」へと変わったことにあると考えています。
Q2|変化の激しい事業環境に対して、どのような認識を持っているか
―事業環境認識とリスク・機会―
現在、グローバル各所に影響の大きいリスクが顕在化してきており、行く先の確からしさも見えづらくなっています。インフレや原材料価格の変動、地政学リスクの高まりに加え、DXやAIなどの技術革新が産業構造そのものを変えつつあります。さらに、気候変動対応や規制強化といったESGに関する要請も、地域や時期によって強弱や方向性に違いがあり、企業にはより高度で柔軟な対応が求められています。
例えば欧州では、従来の騒音やウェット性能に関する規制に加え、タイヤ摩耗粉塵やライフサイクル全体での性能評価など、新たな環境・安全基準の議論が進展しています。こうした動きは、企業にとっては「規制への適合」が求められるにとどまらず、技術力によって差が生まれる「競争領域の拡大」を示しています。
複数の変化が同時に進行する環境下では、従来の前提や競争条件が短期間で変わる局面も少なくありません。不確実性はリスクである一方で、新たな競争優位を生み出す機会でもあります。こうしたなか、競争優位に働く企業力をいかに備えていけるかはこれまで以上に問われていると認識しています。
Q3|そのような環境下で、どのように競争優位を確立していくのか
―経営スピードと独自性の追求―
不確実性が常態化しつつある環境においては、計画を前提としつつも、変化に対する対応力が競争優位を左右すると私は考えています。「変化への対応力」を経営のなかに構造として内在化させることがますます重要になります。TOYO TIREの中計’26では「経営スピード」と「独自性」をさらに高い次元で追求していきます。
私たちはこれまで、データに基づいて議論し、その場で意思決定を行い、スピーディに実行へ移すというプロセスを徹底してきました。ディシジョンとアクションの速やかな連動が競争力の重要な源泉であると考えています。
また、当社の独自性は、商品やブランドのみならず、収益の生み出し方にあります。収益構造を多面的に可視化し、黒字のなかに潜む課題も精緻に洗い出し、対策を徹底することで収益性を高めてきました。
さらに、北米で築いてきた強固な顧客基盤とブランドへの高い評価が、当社の事業の安定性を支えています。とりわけ特定セグメントにおいては当社商品に対する強い支持層が形成されており、価格競争に陥らない付加価値志向のビジネスモデルを実現しています。こうした基盤は今後も、自律的で強固な事業構造を目指すうえで重要な要素になります。
経営基盤には変化に対する強靭さが必要であり、さらにこれらを磨き、企業価値の持続的な向上を実現していきます。
Q4|どの領域で競争優位を築くのか
―成長戦略と差別化のドライバー―
中計’26の成長戦略は、「強みを発揮できる領域を見定めて経営資源を投下する」という選択と集中を基本としながら、その成果を次の成長につなげていく点にあります。
北米では、ワイドライトトラック・タイヤ(WLTR)という高付加価値領域に経営資源を集中し、安定的に利益を生み出す事業基盤を確立してきました。中長期的に持続的な成長を実現することを念頭に置けば、複数の製品カテゴリーにまたがる供給力を通じ、こうした優位性のある特定領域だけではなく、顧客や市場から選ばれ続ける事業基盤の強化が不可欠であり、そうした観点から、乗用車用タイヤ(PCR)やトラックバス・タイヤ(TBR)についても、そのなかで重点を置くべきジャンルを見極めながら着実に拡充していこうと考えています。すなわち、勝てる領域で収益を確保しつつ、その成果を別の成長領域へ再投資していく。そのような独自の成長モデルを推進していきます。
この方針において今回の要となるのが、欧州を主戦場としたPCR戦略です。欧州は、当社が過去に高い収益性を確保していた市場の一つです。2000年代以降、北米事業に軸足を置く当社の歴史的、戦略的な経緯のなかで、欧州市場は相対的に存在感が低下していました。欧州は自動車産業の本場であり、最先端の技術が交錯し、性能が洗練されるクルマ文化を持っています。ここで鎬を削るメーカーは世界的にトップレベルのプレイヤーとして、グローバルマーケットで認められるわけです。
当社は中計’21期間を通じて、欧州における販売・開発・生産の各面で構造改革を進め、再成長に向けた基盤を静かに整えてきました。PCRのなかでも、ウルトラハイパフォーマンス・タイヤ(UHP)という高付加価値領域に当社は照準を定めます。この領域は、価格のみに依拠せず性能やブランドで選ばれる傾向が強く、北米で確立してきた価値訴求のビジネスモデルと高い親和性を有します。加えて、高インチ帯に領域を絞ることで、量を競うのではなく、当社の事業規模ならではのポジションを明確にしていきます。欧州は高速域を含む多様な走行環境と高い品質要求に支えられた市場であり、そこで培われる性能・品質は、グローバルでの競争力の源泉となります。こうした技術を蓄積し、北米を中心とした当社の他領域の商品競争力の向上にもつなげていきます。
また、祖業でもあるTBRにおいても成長機会を取り込んでいきます。当社はこれまでも、大口径タイヤにおける均一性といった設計・生産面での技術力に強みを有しているほか、TBRに求められる耐久性やリトレッド性といった機能性能も評価されてきました。中計’21を通じて財務基盤を整えてきたことで、こうした強みを成長に結びつけていく段階に入りました。北米のTBR市場が堅調に推移するなか、用途ごとのニーズを踏まえ、性能優位を発揮できる領域に絞って供給力の強化を図り、収益へとつなげていきます。
こうした戦略を支えるのが技術・生産面での革新です。当社はこれまで、独自の工法によりデザイン性や均一性に優れた商品を実現し、北米におけるWLTRの競争力を支えてきました。一方で、走行性能などに対する要求も高まる中、従来の工法のままでは生産効率との両立が課題となる局面も生じていたことから、成功体験に依存することなく、米国工場の戦力をあらためて冷静に見極める必要があると考えました。取締役会でも是々非々で議論を重ね、独自工法の強みを活かしながらも、セルビア工場で実績を上げている最新の汎用設備で得た知見を融合し、生産基盤を更新することが、当社の北米事業の成長にとって不可欠との認識を経営層で共有することができました。米国工場のリノベーションを通じて、性能と供給力の両立を図り、北米WLTRの商品力をさらに高めていきます。
重要なのは強みに安住することなく、それを起点に進化し続けることです。WLTRで築いた収益基盤を核に、欧州PCRで技術を磨き、TBRを含む事業領域へと展開することで当社は収益性と将来の競争地位を両立し、持続的な競争優位を確立していきます。
Q5|DXと人的資本は成長戦略をどのように支えるのか
―成長を確実に実行し続けるための基盤―
当社におけるDXは、「経営スピード」と「意思決定の精度」を高めるための基盤です。当社では、収益性などの詳細なデータに基づき、どの市場で何を販売し、どの拠点でどのように生産するかを日次会議で議論しています。こうした取り組みは現在の当社のポートフォリオを形成する原点といえるものであり、北米事業の経験を通じて培った、収益性を支える独自の強みとなっていますが、その情報収集・分析の仕組みには改善の余地があります。
中計’26では、ERP刷新やAIの活用により、情報収集スピードの向上、データの一元化と分析の高度化を進めることで、収益機会の見極めと資本配分の精度をさらに高めていきます。これにより、各局面において最適な意思決定を迅速に実行できる体制を構築し、さらなる収益性の向上につなげていきます。
同時に重要なのは、データを読み解き活用できる人財の育成です。当社ではこれまでも、機能別組織のなかで専門性を高めてきましたが、今後はそれらを束ね、事業や経営の意思決定を横断的に担える人財の強化が不可欠と考えています。若いうちから多様な経験を重ねていくローテーションに加え、キャリア採用によって外部で培われた知見を採り込むことで、組織としての判断力を高めていきます。
データと人財が融合することで、個別最適ではなく全体最適の観点から意思決定を行う基盤を強化していきます。
Q6|成長投資・資本効率・株主還元をどう両立するのか
―財務戦略と資本配分の考え方―
当社は収益性と財務基盤の両面で大きく改善してきました。中計’26では、2030年度に営業利益1,200億円、営業利益率18%以上を目指し、事業収益の水準を一段引き上げていきます。資本効率ではROEに加えROICもKPIとして明示し、投下資本の収益性をより的確に捉えていきます。株主還元は累進配当を基本に、自社株買いを組み合わせることで、企業価値の最大化につなげます。
当社はこれまでも、成長投資、資本効率、株主還元のバランスを意識した財務運営を進めてきました。中計’26では、こうした考え方を踏まえ、収益基盤から生み出されるキャッシュを起点に、成長機会への投資、資本効率の維持・向上、株主還元を一体として管理していきます。成長投資については、これまで述べた戦略に基づき、事業基盤の拡張と競争力の向上につながる領域へ優先的に配分します。
現在の財務状況を踏まえれば、営業キャッシュ・フローに加えて一定の投資余力を確保できると認識しています。この余力については、資本コストを上回るリターンが見込める案件に厳選して配分していく方針です。また、環境・社会に関する課題も含めた中長期的な価値創出の観点からも投資判断の質を高めていきます。
投資判断においては、事業環境の不確実性を前提に複数のシナリオを設定し、リスクとリターンを定量・定性の両面で評価します。投資後もKPIを通じて進捗を継続的に点検し、必要に応じて迅速に軌道修正を行います。こうした規律ある資本配分を通じて、企業価値の持続的な向上を図っていきます。
重要なのは、これらを個別に追求するのではなく、企業価値向上という一つの目的のもとで、一貫した方針に基づき意思決定を行うことです。この規律を維持しながら、資本の最適配分を徹底していきます。
Q7|持続的な成長に向けた考え方
環境がいかに変化しようとも収益を生み出す構造を設計し、それを確実に実行することが経営の本質であると私は考えています。その実践の積み重ねが成果につながってきました。中計‘26においても、事業戦略、資本配分、そして実行力を一体として機能させることで、顧客や社会に提供する価値の質を高め、持続的な成長を実現していきます。
