不確実で変化の激しい時代環境にも、
迅速かつ柔軟に適応する力を
持ち味として発揮し、
事業基盤の強靭化と企業価値の
向上をめざしてまいります
代表取締役社長&CEO
「中計’21」の最終年度を迎えて
本年、2025年は当社が2021年から遂行してきた中期経営計画「中計’21」の最終年度にあたります。直近の2024年度通期連結業績においては、売上高、営業利益、経常利益及び当期純利益のいずれも過去最高を記録しました。中計’21に掲げた目標に照らせば、収益性をはじめROEなど指標に置いていた水準をクリアし、その最終年度を前にしてコミットした主要項目の達成が現実的に視野に入った点について、多くのステークホルダーの皆さまから評価をいただきました。
一方、計画策定時に前提に置いていた外部環境を振り返ると、数ヵ年ではありますが、想定していなかったさまざまな変化に見舞われました。そのようななかにあっても、まさに中計’21にめざす姿として掲げた「変化へ迅速・柔軟に適応する力」によって、当社は機微よく艱難を跳ね返し、前進してくることができたことに、私自身は何より手応えを感じています。
2017年、創業時から続いてきた事業部制を機能別組織に刷新、翌2018年にはタイヤと自動車部品というモビリティ分野を中核に据える経営体となり、これら当社を方向づける新しい事業経営体制の運営が軌道に乗ったタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻が起こりました。世界は混とんとし、グローバルに経済は混乱に直面しました。そうしたなかでの4年間は、我々の適応力が試されてきたと言っても過言ではありません。
2024年、当社が北米市場で競争優位性を持つ大型SUV向け大口径タイヤセグメントの動向変化を察知した局面においては、顧客価値の最大化という原点に立ち返り、日米の販売、マーケティング、技術サービスなど関連部門が連携を密にそれぞれの役割を発揮して、顧客へのきめ細やかなフォローを展開しました。総力を挙げた取り組みが奏功し、中計’21で設定した北米向けの販売本数比率、重点商品比率、売上構成比率は、2024年時点で目標を大きく上回る結果となっています。
また、同年、欧州では自動車需要の鈍化とともに自動車産業に関わるさまざまなプレイヤーが事業の再構築や再編など、経営の緊縮化へと舵を切りました。一方、強みの強化によって経営基盤が盤石化してきた当社は、EU域内に点在していた販売機能を生産拠点のあるセルビア共和国に新設した販売会社へ集約。この機を逃さず、欧州事業の経営基盤強化に乗り出しました。
事業環境に応じて戦略を柔軟かつ緻密に軌道修正しつつも、ここ数年、行う判断において私が常に意識しているのは当社の価値観に基づいた事業方針を見失わないということです。お客さまに寄り添って潜在的なニーズを引き出し、開発陣にフィードバックする。この愚直なマーケティングを軸として機能連携によって商品の差別化を図り、各地域の市場動向に合わせて当社独自の高付加価値商品を戦略的に選定し、供給していくという方針です。当社が北米市場で独自のポジションを獲得するに至ったこの方針は経営陣に徹底されており、また、経営幹部から各機能組織の現場への浸透も進んできています。
新型コロナウイルス感染症という未曾有の危機に瀕したとき、社内に対して私は「これを奇貨として力をつける」よう発想の転換を呼びかけました。毎日、全機能組織の幹部を集め、収集した情報をくまなく共有する。そして、課題に対する解決アプローチを同じテーブルの上で意見交換しながら探り、方策を決めていく。私以下、フラットにポジショニングされた各機能組織のトップが共通の情報を認識し、意思決定されるとそれが全社施策として一気に展開されることになります。
当社の持ち味、当社らしさにこだわったスピード感ある変化への対応。こうした蓄積が2024年度の成績につながっていると考えています。中計’21の最終年度も既に上半期を終えました。掲げた経営目標を捉えて余りあるステージへ、さらに実力値を高めていけるよう取り組んでいきたいと思います。
サステナビリティ経営の推進状況
中計’21における我々のチャレンジの一つは、事業経営にESG基盤を一体的にビルトインし、サステナビリティ経営の浸透を図ることでした。2021年に新設したサステナビリティ委員会においてマテリアリティを特定し、翌年からはそれにひもづく活動テーマを機能組織の事業計画に落とし込み、全社横断的にサステナビリティ活動へ本格着手しました。それらの活動進捗は委員会で定期モニタリングし、レビューする仕組みを定着させています。技術委員会など他の専門委員会との連携、経営会議への諮問や取締役会での活動報告など「ESGガバナンス」も着実に進み、中計’21で掲げた「事業経営とサステナビリティとの融合」は一定のレベルまで進めてくることができたと自己評価しています。
その間に顕在化した、世界レベルで対策が必要な社会環境課題は枚挙に暇なく、各国で関連する政策が打ち出され、業界としての対応必要性、社会的要請も高まってきました。こうした動向を常にウォッチし、当社の事業経営にどのようなリスクが生まれ、また機会をもたらすのか、中長期的な視点をもって対策を講じていく必要があります。
世界的な地域情勢の不安定化がもたらすエネルギー安全保障やサプライチェーンへのインパクト、安価な価格設定をするコンペティターの北米市場参入と競争激化など、中計’21の経営目標達成に重大な影響を及ぼしかねない経営課題も頻出しており、全社レベルでリスク感度と機動力を高めたイシューマネジメントを心がけています。現在、次期中期経営計画の策定プロジェクトと連動し、織り込むべきESGのリスクと機会の精査を進めていますが、2025年度末の委員会では、サステナビリティ活動テーマと目標・計画をアップデートする予定にしています。
目下の中長期課題としては、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた実効性ある対策、サーキュラーエコノミーを意識したモノづくり、天然ゴムサプライチェーンの生物多様性を含む自然資本への対応が挙げられます。
当社はカーボンニュートラルへのマイルストーンとして掲げる2030年の目標達成を視野に入れていますが、今後、生産工程での削減、再生可能エネルギー由来電力を含む次世代エネルギーの活用、SBT認定を取得したScope3目標の達成に向けたサプライヤーエンゲージメントなど、実質的なCO₂排出削減への貢献度合いを高めることが重要になります。
また、サーキュラーエコノミー対応の一環である欧州エコデザイン規則の施行に向けてはリサイクル材使用率や資源効率、再利用可能性等への技術対応、そして商品戦略の連動が鍵になることを見据えています。欧州では、2025年中にも欧州森林破壊防止規則の適用が予定されており、規則遵守はもちろん同規則の背景にある自然資本の喪失を止め、回復軌道に乗せるという本質的課題解決に貢献していきたいと考えます。
マテリアリティの一つである人財基盤の強化については、人的資本経営の在り方を協議・決定する組織人事委員会に諮問しながら取り進めています。求められる役割期待を明確にし、挑戦意欲を動機づけていく評価と自己成長を促す育成の仕組みを導入しているほか、社員本位で選択できる多様な働き方・働き場所を用意し、一人ひとりが業務遂行やワークライフバランスに向けて自律的に有用な選択を行える当社独自の環境を積極的に整えるなど、中計’21で掲げた人事政策の成果は一定程度進んできたと評価しています。
次期中期経営計画では、経営戦略に接続した人的資本戦略のもと、人財の価値を最大限に引き出し、企業価値の向上につなげていくことが不可欠であると認識しています。
次期中期経営計画に向けて
現在、2026年を起点とする新しい中期経営計画(新中計)の策定を進めています。中計’21を通じて注力してきた北米市場には、当社の強みをさらに生かして挑戦できるセグメントがまだまだあると考えています。一旦、身をかがめて経営基盤の再整備・強化を進めている欧州、日本の市場に対しても攻勢の準備が整ってきています。
世界では保護主義的傾向が目立ち始め、世界経済の成長を可能にしていた自由貿易体制が崩壊の危機に直面していると言われていますが、新時代のグローバルサプライチェーンをどのように構築していけるかが重要になると考えています。不確実性の高い事業環境にあっても、当社独自の思想に基づいた事業基盤の強靭化ができれば、変化に対して迅速かつ柔軟に適応する力がさらに向上し、意思決定における質とスピードを高めていくことができると信じています。
真の企業価値の向上をめざし、本統合報告書を通じてステークホルダーの皆さまと建設的な対話を継続していきたいと考えています。今後ともTOYO TIREグループにご期待とご厚誼を賜わりますようお願い申し上げます。